電話 ~その2~

2016.12.26 岡田定晴
 移り行く時代(作曲:Amacha)

 昭和50年、地方都市で独身生活を始めましたが、電話機はやはり軽量型の黒電話でした。電話の申し込みは、電話局に行って行いました。 今の電話局は、入口のシャッターが降りて一般の人は中に入れないのですが、当時の電話局は、 大勢の顧客で混雑していました。恐らく、電話の開設や移転の申し込み、電話料金の支払いなど のために多くの人が電話局に訪れたのではないかと思います。

 電話が開通するまでには数週間の時間がかかり、また電話を申し込むときに電話債券を6万円くらいで購入しなければなりませんでした。 プッシュボタン式の緑色の電話や、新しく開発された「ポケベル」というものも見せて貰いましたが、自分には必要ありませんでした。

 実家に電話をするときには、私からの電話だとわかって貰えるように、 実家の電話の呼び出し音を一回聞いてすぐに自分の受話器を下ろして電話を切り、また直ぐに実家に電話をかけ直すようにしていました。 この方法で、実家では私からの電話だということが認識できたのです。 実家では1回ベルが鳴っただけでは、電話の受話器を持ち上げることはまず無いので、通話料がかからずに自分を判別してもらう有効な方法でした。 当時は市外通話の電話料金が高く、特に遠距離通話は、常に料金を気にしながら話していました。 それでも、毎月9千円から1万円程度の電話代がかかっていました。

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 昭和50年代、電話は仕事の上で非常に大きな役割を果たしていました。交換機と交換手を置いて、 外部からの電話を取り次ぐ形態が一般的でしたが、ダイヤルイン(外部から自席への直通電話)も使われ始めました。 何度も電話をする仕事の相手に、いちいち交換手を通して電話をしなくてはいけないのは時間とコストの無駄です。 仕事の打ち合わせを電話で行うときは、電話の相手が自分の話を聞き返すことがないように、また伝えるべき要件を忘れないようにして、 電話の回数と時間を極力減らす配慮をすることも業務遂行能力の一つでした。 机の上の電話が鳴る回数で、誰が忙しいのか、その職場が忙しいのかどうかを知ることができました。 金属製の本物のベルがけたたましく鳴るので、活気がありました。 電話をしなくてはならない要件を紙に書いて、セロテープでペタペタと電話に貼り付けている人も居ました。 付箋紙という便利なものは未だありませんでした。 受話器を取るべき人が席を離れているとき、電話に出て応対し、要件をメモに残して伝えることも、電話が多い職場では大変な作業でした。 当事者が出勤する前にかかってくる電話があると、相手に自分の出勤時間を伝えておいて欲しいと思うこともありました。 自宅から職場の夫に電話をするときに旧姓を使うように奥さんに言い聞かせ、自分以外の人が電話に出た時に、自宅からの電話であると悟られないように 配慮している人もいました。

 電話が大きく変化し始めたのは、平成に入ってからでした。 電電公社(NTT)が供給する電話ではなく、家電メーカーがつくった電話機、本体と受話器が分離できるワイヤレスタイプ(コードレス)の電話、 ポケベル(ここに電話をしてくださいというメッセージを受信して表示するモバイル機器)、 テレフォンカード(公衆電話で、硬貨の代わりに使える磁気カード。平成9年ころには、お祝いや記念品として500円や1000円のテレホンカードに写真や文字を印刷して利用されていた)、 1990年代後半の携帯電話の普及、 頻繁に行われる携帯電話のモデルチェンジ(軽量化・多機能化)、 2010年頃からのスマートフォンの急速な普及、 Skypeなどのインターネット電話(TV電話)と、目まぐるしく変化して現在に至っています。 Skype番号を取得して、世界中の加入電話や携帯電話から、自分のパソコン(Skepe)に電話をかけることも できますので、これをオフィスの電話番号として記載している名刺も見かけることがあります。

 市外通話や海外との通話料金が高価であった時代、オフィスの机の上の電話が仕事の重要な手段であった時代から、 通話料金をあまり気にすることなく世界中の人と顔を見ながら通話ができる時代になりました。複数の人が同時に顔を合わせて、 また同じ図面や文書を見ながら通話をすることも、チャットや、音声やビデオのメッセージ通信をすることも 可能な時代になりました。しかし、これらの機能が充分に使われるためには、その機能が必要とされるニーズがあること、 その機能を使いたいという関係者の強い意志、チャレンジ、日常的に継続して使われる、ということが不可欠です。 ここでも、ICT(情報通信技術)の進歩の恩恵を受けるには、「共通する認識や経験が必要であり、 教育が重要である」ということを痛感するのです。


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