朗読者からのコメント 「山椒大夫・後編」





 大正4年(1915)に発表された、森鴎外の作品です。長編なので、前編と後編に分けて収録しました。 森鴎外の作品としては、前編、後編と別れている訳ではありません。

 二人の子供が話を立ち聞きされて、その晩、恐ろしい夢を見たときから、安寿の様子が変化し、 厨子王は悩む。厨子王は、伊勢から売られてきた安寿の姉のような小萩の存在を心強く思った。 冬を越し春になったある日突然、安寿は、弟と同じ場所で芝刈りをしたいと奴頭に申し出る。 安寿が髪を切って差し出すことを条件に許された。二人は一緒に木戸を出たが、安寿は胸に秘密を蓄え、 厨子王は憂いばかりを抱いていた。芝を刈る場を越え外山の頂に着いて、安寿は自分の計画を話す。 小萩から聞いた都への道を教える。良い人に出会えば父の身の上を知り、佐渡へ母を迎えに行く こともできる。姉を心配する厨子王を説得し別れ際に、守本尊を渡し大事にすることや、 討手から逃げる策も伝える。厨子王は逃げきることを誓い姉と別れる。後に山椒大夫の討手が、 沼の端で安寿の藁履を拾った。厨子王は姉から教わった通り、国分寺に逃げ助けを求めた。



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住持律師や鐘楼守が、厨子王を討手から守った。厨子王は僧形になり昼は街道を歩き夜は寺に泊まった。 律師は本尊を大切にして往け、父母の消息が知れると言い残す。清水寺に泊まった翌朝、 隣の部屋に娘の病気の平癒を祈るため泊まっていた関白師実が、夢のお告げで厨子王が持つ守本尊を知り、 拝ませて欲しいと頼む。厨子王は、これまで身の上に起きたことを関白に伝えた。関白は守本尊を見て、 筑紫へ左遷された正氏の子に違いない、還俗の望みがあるなら、受領の沙汰もあると伝えた。 関白は厨子王を還俗させ、筑紫の正氏のところに赦免状を持たせて使いをやったが、既に死んでいた。

正道(厨子王)は丹後の国守に任ぜられ、最初の政として丹後一国で人の売り買いを禁じた。 恩人の律師は僧都にされ、姉をいたわった小萩は故郷へ還され、安寿は弔われ、入水した沼の畔には 尼寺が立つことになった。正道は、これだけのことをして佐渡にわたり、母を探し求めた。 大きな百姓家のむしろに干してある粟の穂、そこに襤褸を着た盲目の女が歌のような調子でつぶやいていた。 安寿恋しや、ほうやれほ。厨子王恋しやほうやれほ。正道は、女の前に伏せて守本尊を額に押し当てていた。 女は目があき、「厨子王」と叫んだ。

 朗読は長時間に及ぶので、単調にならないように、情景が目に浮かぶよう心がけました。 また特に、厨子王が清水寺で関白師実に会ったときの状況をはじめ、結末に至るまで工夫を凝らしました。
(38分30秒)


岡田定晴


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