朗読者からのコメント 「山椒大夫・前編」





 大正4年(1915)に発表された、森鴎外の作品です。長編なので、前編と後編に分けて収録しました。 森鴎外の作品としては、前編、後編と別れている訳ではありません。



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 母と二人の子供そして女中が、父のいる筑紫の国に向かって旅をしている。その道中、言葉巧みに騙されて、 二人の子供(安寿と厨子王)と、母親と女中は、違う船に乗せられ、南と北、別々の方向に連れていかれる。 母は別れを悟りその際、安寿は守本尊の地蔵様を大切にするように、厨子王は父からもらった守刀を大切にするように、 そして二人が離れぬように伝える。母を呼び続ける二人は、船頭から、母たちは佐渡へ渡ることを知らされ、 その後、丹後の山椒大夫のところに売らる。安寿と厨子王は、山椒大夫に目通しされ、安寿は汐汲み、 厨子王は芝刈りを言い渡され、新参小屋へと向かう。二人は仲が良く、お互いに助け合い、父母のことを話し合い、 逃げるための具体策を話し合う。そこを見張りの者に立ち聞きされ、逃亡の企てをした者には烙印をすると言われ、 必死に弁解してその場を切り抜けた。その晩、二人は同じ夢を見る。二人は山椒大夫のところに引きずられて行き、 炭火の中で赤くなった鉄で額に烙印をされる。きずの痛みと心の恐れから気を失いそうになりながら、 守り本尊の地蔵様にぬかずくと、痛みときずはなくなった。二人は目を覚ました。夢で見たのと同じように、 守り本尊を取り出し伏して拝んだ。地蔵尊の額に、たがねで彫ったような十文字のきずが鮮やかに見えた。

 朗読をしようと決めたとき、この大作のあまりの量の多さに、ほんとうに最後まで朗読できるのか、 自信が持てませんでした。最も苦労したのは、女性らしい優しい話し方をすることでした。 そして、前編のクライマックス、熱くなった鉄で額に烙印をされ、守り本尊に救われたところを、 如何に盛り上げていくのかということでした。
(50分34秒)


岡田定晴


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