朗読者からのコメント 「恩讐の彼方に 二」





 市九郎とお弓は、江戸を逃れ、人目を忍びながら上方に向かいます。路用の金が尽きると、往来の町人百姓の 金を奪いました。始めは女からの教唆で動いた市九郎も、悪事の面白さを味わい始め、切取強盗を正当な稼業と 心得るようになって信濃から木曾へかかる鳥居峠に土着し、昼は茶店を開き夜は強盗を働くようになりました。



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 江戸を出てから三年目の春、市九郎が金のありそうな旅人を狙ってその年の生活費を得たいと思っていたときに、 信州の豪農の若夫婦らしい旅人が店に立ち寄りました。旅人が、次の宿までどのくらいあるのかと尋ねると、 お弓が、もう直ぐの距離であると言って油断させ、店で休んでいくように勧めます。罠に陥った夫婦が、店を出て 姿が見えなくなると、お弓は市九郎に合図をします。市九郎は、先回りして夫婦を待ち構えます。 市九郎は幸福な旅をしている二人の命を奪うことに罪深さを感じ、路用の金と衣装を出すなら決して殺生はしまいと 心に決めます。

 しかし、相手に自分の顔を見覚えられていたことがわかると、市九郎は二人を生かしておけなくなります。 必死に許しを請う女も、切って衣装を台無しにはできないので、首を絞めて殺しました。 二人の胴巻きと衣類を奪うと、市九郎はその場から一散に逃れ、家に戻ります。 深い良心の呵責にとらわれている市九郎に、お弓は悠然として奪った金を調べます。また、女の着物を手に取って 高級品であることに感心する一方、市九郎に、七両や8両もするであろう頭に着けていたものが無いことを責めます。

 お弓は、一走り行って頭のものを取ってくるように迫りますが、応じない一九郎に、自ら取りに行きます。 お弓に抑えがたい嫌悪感を感じ始めていた市九郎は、自分の犯した悪事が蘇り、一刻も早く自分の罪悪の萌芽であった 女から逃れたくなって、あてもなく道でない道を木曾川に沿って一散に走りました。

 お弓の性格と、市九郎の心の動きが伝わるように朗読しました。
(18分24秒)


岡田定晴


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